Home > 研究所設備 > 環境共生技術関連設備

環境共生技術を研究するための大きな実験装置

本研究所は、2004年度文部科学省学術フロンティア推進事業「都市・ストック再生を目的とした環境共生技術の戦略的開発」として、築36年を経過した研究所建物を様々な環境・設備技術を総合的に導入し、一つの総合的なサスティナブル建築=環境共生技術フロンティアとして再生・改修しています。これらにより、この研究所の建物は、総合的な研究施設であると共に、環境共生技術を研究するための大きな実験装置ともなっており、現在、建築全体を使い、各技術の検証研究が行われています。
 

 
老朽化した既存建物において、環境共生技術が、建築、構造、設備の合理的統合を創出し、サスティナブルでフレキシブルな研究施設へ再生させることをコンセプトにしています。
 
1.ダブルスキン&ソーラーチムニー
2.地中熱利用空調システム
3.雨水・排水再利用システム
4.都市気象観測システム

CASBEEによる環境影響評価

環境共生技術によってリニューアル工事した本研究所の建築を、国土交通省が実施しているCASBEE(建築物環境性能評価ツール)で評価した結果、その指標となる建築物の環境性能効率値が、ランクB- からランクAに向上しています。

 

ダブルスキン

ダブルスキンとソーラーチムニーは、効果的な熱除去や自然換気の促進などにより快適な室内環境が確保でき、また、熱負荷削減率の低減にもなり省エネルギー効果を得ることのできる装置です。
建築物の西面は、日射の影響を大きく受けるため、特に夏期においては高温となり、熱的環境の改善が必要とされます。本研究所の建物は、南北方向に長く、西面での日射の影響を大きく受ける配置になっています。
   

しかし、一定の幅を持つダブルスキンを採用することで、夏期には、日射負荷の軽減させることができます。ダブルスキンは西面2 階~4 階に設置。下端はメンテナンス通路とし、開口率60%のグレ-チング床としています。上部開口部は、東面、西面が開閉できます。夏期は開け自然換気を促進し、冬期は閉じることで断熱が向上します。この効果により内壁側の開口部は、断熱性能の高いガラスを用いなくとも普通ガラスで室内側の快適環境を確保しています。

ソーラーチムニーとの連動

トップライトからの光は、暑さ150mmのコンクリート壁に蓄熱されることでソーラーチムニーとなり、外部冷気を建物内に導き、建物を冷却し、昼間の冷房負荷を軽減します。
また、空調停止後の夜間に、ソーラーチムニー、4 階開口部を用いたナイトパ-ジにより、躯体冷却の効果が得られることが確認できています。

ダブルスキンとソーラ-チムニ-の連動により、ダブルスキン内の加温で上昇した空気は、連動部から4階の居住空間実験スタジオを介しソーラーチムニーより排気します。
これらにより、夏期の熱除去、中間期の自然換気をさらに促進させ、快適な室内環境をつくります。



連動時の温度分布と風速ベクトル図

検証結果

夏期はダブルスキンとソーラーチムニーとの連動運転によって、熱除去率は平均60%以上を確保し、日射による熱負荷を削減でき、快適な環境が確保できることがわかり、中間期は、ソーラーチムニーと室内開口部によるナイトパージによって省エネ効果も期待できることがわかりました。また、冬期は、ダブルスキン内温度が30~40℃と高温となり、断熱と熱取得の両効果があることがわかり、省エネルギー効果を確認することができました。

地中熱利用空調システム

地中熱利用空調システムは、地中温度の恒温性を利用して地中に空気や不凍液を冷媒とした配管を施すことで、年間を通じて廃熱の有効利用でき、安定的な室内温度が得られやすくなります。
地中熱の利用により環境負荷への低減を図り、建物からの空調廃熱を大気に放熱しないため、都市部におけるヒートアイランド現象防止に繋がります。また、一般の空調システムで必要となる冷却塔や補助熱源が不要となるために省スペース化を図れるので、中小規模の建物の改修技術としても期待できます。
特に、本研究所で採用した地中熱を利用した空調システムは、立地が臨界部の埋め立て地で河川に近く、地下水位もGL 面より1.5[m]程度下方と高いため、シルト系土層での水分を多く含んでおり、その熱特性を利用しています。

地中熱利用空調システム

垂直パイプ

埋設した2本の基礎杭に、熱伝導率の異なる高密度PE管と金属強化PE管の熱交換パイプを垂直に装着し、2階実験室内にヒートポンプ方式の空調機により、地中との熱交換を行うシステムとなっています。

垂直パイプとPC杭の埋設

熱交換パイプの設置

高密度PE管

金属強化PE管


水平パイプ

熱伝導率の高いパイプを地表から一定の深さに水平に設置し、垂直パイプと同様に、2階実験室内の空調機に接続しています。空調機はヒートポンプ内蔵型とし、屋外機は使用しないことで、中小事務所ビルの改修工事にも適応できる技術としています。

水平パイプ

ヒートポンプ内蔵式空調機

実験室2 階平面図

水平パイプの埋設の深さは設置コストに大きく影響しますが埋設が浅いと外気温の影響を受けるため、熱交換パイプの間隔を調整するなど調整が必要となります。本実験においては、水平熱交換パイプをク-ルチュ-ブの直下に全長約30m布設しています。

クールチューブ

埋設されたパイプに外気を取り込むことで、夏期には冷却され、冬期には暖められた空気に置換されて室内に供給されます。

検証結果

 

熱交換杭土壌と周辺温度(2006 年6 月~2007 月5 月)

夏期、冬期の各3 ヶ月間の運転中における平均放熱量と平均採熱量を計測した結果、内陸部で得られる一般的な値に対して、夏期は1.8 倍ほど多く放熱し、冬期では2.4倍ほど多く採熱したことから、金属強化PE 管の熱特性と臨海部に面した土壌温度の特性を有効に活用できていることがわかります。

雨水・排水再利用システム

このシステムは、築36年の既存建物の改修・再生プロジェクトの中で、建物全体に導入しています。
改修前の建物の地下には、既設のRC造の蓄熱槽と上水用受水槽、ペントハウス上部には、既存FRP製の高置水槽が設置されていましたが、これらを利用して、雨水・雑排水リサイクルシステムを計画し、節水化を実施しています。また、リニューアル後、この雨水・雑排水リサイクルシステムにより約70%の高い水代替率という検証結果を得ています。
 
【雨水・雑排水の再利用】
・クールルーフシステム(屋上緑化パレット・ビオトープ)への散水
・ダブルスキンへの散水
・壁面緑化など植栽への散水
・圧送排水・真空排水トイレシステムへの給水
 

雨水・排水再利用システム


屋上への雨水をサイホン式雨水排水システム( 管径50[mm])、沈砂槽、雨水貯槽、ろ過、滅菌剤貯槽を介して雑用水処理槽、雑用水高置水槽を経て節水トイレ、真空または圧送排水便器システム、クールルーフシステム(緑化パレット、ビオトープ)へ給水します。同便器システムは、配管こう配を確保することなく排水でき、リニュ-アルやコンバ-ジョンに対応できるシステムとなっています。

改修前の蓄熱槽

改修後の雨水貯槽


 

 

雨水・排水利用システムは、節水効果だけでなく、散水による熱的負荷の削減ができ、蒸発潜熱利用による省エネルギー効果も期待できます。夏期のダブルスキンへの雑用水の散水は、日射を受けて高温になった壁面の温度を低下させ、雑用水で成長した落葉樹であるバラの壁面緑化は、年間を通じて建物への日射を調整してくれます。

ダブルスキンへの散水

壁面緑化への散水

クールルーフシステムへ給水

圧送排水・真空排水トイレシステムへの給水

都市観測装置

固定観測用と移動観測用とがあり、固定用は、建築環境設備シミュレーションタワーに設置し、約4年間に渡り気象データを収集し、先の雨水循環排水再利用システムでの雨量データ、環境負荷削減空調システム装置での外気温、日射データの供給に寄与しています。また、収集データは最後に自然環境情報のデータベース化にも活用されています。
 
 

都市環境計測装置
(移動計測用ユニット)
都市環境計測装置
(高層階設置ユニット)

建築環境設備シミュレーションタワー

本実験装置は,建物内建築設備性能と建物周辺の気象環境等を実測及び,シミュレートすることを目的とした実物大規模の大型実験装置(地上約27m,実階数9階)です。

(1) 建築設備性能試験と性能診断
建築基準法改正、品確法の制定にみられるように、21世紀は、建物設備の性能診断や性能把握を中心とした研究開発に主眼が置かれる中で、特に性能を規定するための性能試験法の整備は重要な研究課題であり、そのための基礎理論の構築と実験検証の場としてこの施設は位置づけられています。また、公共性の高い実験装置として関連団体や学会等の公開実験の場としても提供し、「開かれた実験タワー」として産・官・学との共同研究を促進させる研究にも積極的に取り組んでいます。

(2) 水平展開を可能とした実践型設備実験タワー
既存のタワー実験研究の成果や装置運用の経験から、実際の建物に対応した実験が高効よく実施できるように配慮しています。
単なるタワー本体に付帯させた縦方向を中心とした設備システムの実験だけではなく、隣接する建築設備工学研究所の外壁、屋上等を有効に活用することにより縦方向に水平方向からのシステムも加えた今までの実験タワーではできなかった応用的な実験を可能としています。

(3) 建築設備診断と維持保全用実験装置としての活用
これからの設備の改修、リニューアル需要への視点として、設備立て配管系の改修実験、既設の径年配管等を設置しての配管更正工法実験、排水配管の清掃実験など、維持管理データの収集を行います。
 
  

次世代型空調システム性能試験室

持続可能な社会の構築に向けて,エネルギー消費や効率の面で優れていることはもちろんのこと、環境や居住者にとっても高い満足度が得られるような次世代型の空調設備システムの確立が求められています。2000年に完成した関東学院大学次世代型空調システム性能試験室は、試験室にオフィス、住宅等の室内環境をつくり出して実験が行われます。また、環境試験室の天井裏と床下を空調用ダクトワークやプレナムチャンバーのための空間として利用することで様々な空調方式が採用可能となる実験装置となっています。

 
(1) 次世代型空調システム性能試験室
次世代型空調性能試験室は,9600mm(L)× 3650mm(W)×2350mm(H),床面積35m2,容積82㎥あります。
環境心理面の実験に対応するため,室内は通常のオフィス空間を模した内装仕上げを採用しています。
[ 床材 ]
200mm 高さのFSRC(スチールメッシュで補強された繊維強化セメント)製500mm角の孔あき二重床パネルを用いており,床スラブ上に30mm のビーズポリスチレンボード断熱材を敷設。また,タイルカーペットには,通気性タイルカーペットを使用。
[ 天井 ]
グリッド式のシステム天井とし,照明は,天井埋め込み型Hf蛍光灯16W4灯組を18 セット設置。
[ 窓 ]
合計4 箇所あり,間仕切り壁により室内を同一寸法の2 室に分割した使用が可能です。
試験室の周囲には,300mm幅の緩衝空間を設けてあり,壁面を通した不必要な熱の移動を抑制する工夫がなされています。
  写真:次世代型空調システム性能試験室での実験の様子 
 

 
(2) 空調システム
熱源機として,空冷ヒートポンプ式ブラインチラー(冷却能力28.0kW,暖房能力44.0kW)を採用し,一部補助熱源用として電気ヒーターを付加していて、取入れ外気の除湿は,ハニカム式除湿機にて行っています。

空調機の系統は,4種類あり,a)試験室系統,試験室周囲の緩衝空間用であるb)Aゾーン系統,c)Bゾーン系統,さらにd)パーソナル空調系統で構成されています。

試験室系統の室内への送風量は最大1800m3/h,外気は最大900m3/hまで取入れ可能で,室内制御域は空気温度15 ~ 35 ℃,湿度30 ~ 80 % RH です。A・Bゾーン系統の風量はそれぞれ最大600m3/hあります。

パーソナル空調系統には,机上吹出し型のタスク空調システムが4 セット接続されており,1 台あたり200m3/hの送風が可能です。
複数の給気(天井・床・机上),排気(天井・床)方式の組合せによる実際のオフィス環境を模擬した空調試験を行うことにより,冷暖房換気方式の違いによる温熱空気環境,エネルギー消費量の評価試験を行うことができます。
 
(3) 今後の予定
複数のタスク空調システムとアンビエント空調システムの組合せ条件下における実験により,次世代型空調システムとして期待される執務空間におけるタスク・アンビエント空調方式の適用可能性に関するデータの整備を行う予定です。
実際の条件に近い環境におけるタスク・アンビエント空調システムの組合せ試験により,オフィスにおける室内発熱負荷の偏在や,個人差が大きい居住者の温熱環境や気流に対する嗜好を満たすと同時に,環境負荷を低減することが可能となる組合せ条件を明らかにしてゆきます。

尚,本装置は,平成12年度私立学校施設整備費補助金(私立学校教育研究装置等施設整備費(私立大学・大学院等教育研究装置施設整備費))によって設置されています。

電気分解実験装置

underconstruction

建築音響実験室